【プロに聞く】心を育む絵本 子どもの成長にどう影響?
2020.08.12
絵本は、ただ「面白い」というだけでなく、「心を育む」といわれています。
小さいうちから本に触れることは、子どもの成長にどのように影響するのでしょうか。
広島大学大学院教育学研究科の難波博孝さん、絵本作家の朝川照雄さんの対談から学びます。
(聞き手/FM東広島パーソナリティー・吉岡直子)
―絵本の魅力は。
朝川 絵本は想像力、言語力を育てます。冒険などさまざな疑似体験ができますよね。
難波 そうですね、想像力を育む力は大きい。本は虚構の世界、大人は現実世界。子どもは知らず知らずに虚構と現実の世界を行き来し、その 区別がつくようになる。
―ファンタジーと現実の境目ができるということですね。
難波 はい。虚構の世界と現実の世界の両方の想像力が培われる。加えて、小さい子の場合は必然的に大人が読み聞かすことになります。子どもと大人と絵本のトライアングルで、子どもは温かい関係の中で育っていく。それは子 どもの人生にとって、大きな力となります。
朝川 絵本は大人が選んで読んでやるもの。親、兄弟、じいちゃんばあちゃん、生活を共にしている人が読んであげるといい。1対1で読んでもらうのが思い出。言葉を感じ、それが頭に刻まれ、想像力を育みます。
難波 本当、大事なこと。一人で本を読む時は、頭で文字を声にしている。読み聞かせをしてもらった子は、声にしやすいため、好んで一人で本を読む。読み聞かせでたくさんの語彙を生で聞くということは、子どもの成長に大 事。
―テレビやビデオは子ども一人で見ることができます。
難波 一方通行では思い出に残りにくい。絵本はメディアの中でも、必然的に人が介する媒体。それだけ人とのつながりを強める。絵本を持った時の重さ、手触り、全てが体験になる。
朝川 デジタル絵本もあるが、大きさ、厚さ、質感は、紙の本ならでは。
難波 授業で絵本を紹介する時に、学生に読んだことがあるか聞くと、誰がいつ読んでくれたかを覚えている学生がたくさんいます。読んでもらったという経験は、人の心の優しさの根本にあるものだと思います。
―どうやって絵本を選ぶといいですか。
朝川 子どもの行動範囲に合わせた内容がいいですね。2~3歳は家の中の話。4~5歳は保育園での遊びや車に乗ってお出掛けなど、成長に合わせて選ぶことが大切。
難波 そうですね。0~12歳の子どもの成長はさまざま。子どもが手に取って楽しむ本がいいですね。
朝川 図書館の絵本のコーナーに行って、子どもに自由に選ばせてみて。読んでやって、最後まで聞く本は借りて帰る。家でも繰り返し読んでとせがむ本は買ってやるとい いですね。子どもに合う本に出合うということは、宝を見つけたようなもの。そうすると、大きくなった時に「読んでくれた」ときっと思い出す。そうして絆が深まっていくと思う。大人になってつらいことにぶち当たった時に乗り越える力が付きます。
―朝川さんは、絵本を作る時、声に出して書いていると聞きました。
朝川 黙って書いていくと不安。声に出して、言葉の質感、発音のしやすさなどで言葉を選んでいく。絵本「ゆうくんだいすき」の一文、「おかあさんのむねはふんわり あったかいいにおい」は、最初は「おかあさんのむねはなんてあたたかいのでしょう」だった。これだと想像が膨らまないですよね。
難波 「ふんわりあったかいいにおい」の「ふんわり」が想像を広げる。子どもたちは、自分のお母さんを思い出します。
朝川 同じ絵本でも、それぞれの子どもに合う絵本になります。
―上手に読まないといけないと思います。
難波 どんな本でも、どんな読み方でも大丈夫! 本を介して、子どもと大人が一緒に楽しむ、時間を使うことが限りなく貴重な体験になります。