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  • 賀茂台地の昔話 ~幽霊が飴玉を買いに来た話(八本松町)~

    2020.09.01

     

    八本松町大字飯田上組の中に宗吉分というところがあります。もとは宗吉村で今も大字は宗吉になります。

     

    昔、その宗吉分に一軒の店がありました。ある晩のことでした。店のおばさんがもうお客さんもあるまいから店を閉めようかいと外に出ますと、ひとりの女の人が影のように立っていました。ついぞ見かけぬ人でした。

    「まあ、びっくらした。あんた、どうしんさったんのー、ここらの人じゃないようじゃが。ここは寒いけん、まあ中へ入りんさい」

    おばさんは、そう言って女の人を中へ入るよううながしました。女の人は無言のまま頭を下げて礼をいい、中に入りました。顔は青ざめ、髪も乱れており、見ただけでもぞっとするような恰好(かっこう)をしておりました。

    「どこの方か知りまへんが、何かうちに用でもあってんでひょうかのー」

    と、おばさんが聞きますと、女の人はたもとへ手を入れ何枚かの一文銭(いちもんせん)をつかみ出し

    「あのー、すみませんが、これで飴玉(あめだま)をもらえんでしょうかー」

    といいました。その声はまるで地の底から聴(き)こえてくるような声でした。

     

     身ぶるいしたおばさんはその銭を受け取りましたが、そのときさわった女の人の手のつめたかったこと、まるで氷のようでした。

     飴玉を蓮(はす)の葉につつみながら、一個余分に入れ「ひとつまけときますけんのー」といいますと、女の人は「ありがとうございました」と礼をいって出て行きましたが、まるで風のようにふわーっとした歩き方でした。おばさんはしばらくの間金しばりにあったように動けずにおりました。

     

     ところがです。次の日の晩のことです。早めに店を閉めたおばさんが晩ごはんをたべておりますと、ホトホトと店の戸をたたく音がします。はじめは風の音くらいに思って気にとめずにおりましたが、そのホトホトの音はやみません。仕方なしに降りて戸を開けてみますと、またも夕べの女の人が立っているではありませんか。おばさんは心臓がとまりそうでした。

    「夕べはありがとうございました。おかげで助かりました。すみませんが、また飴玉をいただきたいんですがー」

    女の人はそういってまたも何枚かの一文銭を出しました。おばさんは夢中で飴玉を包んでやりましたが、一晩ならず二晩もつづいて飴玉を買いに来た見も知らぬ女の人を不思議に思い、知らずしらずのうちにその跡をつけておりました。

     

    女の人は、風のように歩きながら中山を越して宗吉へ出る道を行きますが、あまり早いので、そのうちに見失ってしまいました。

     

    翌(あく)る日、近所の人に話をして、一緒にさがしてもらうことにしました。そして、夕べ女の人の姿の見えなくなったあたりまで来ますと、どこからか赤ん坊の泣き声がするではありませんか!。

    一様(いちよう)にぎょっとして、立ちすくんだまま、声のする方を見ますと、その声は土の中から聴こえてくるのです。

    走りよってその泣き声のするところを見ますと、そこは三日前、臨月(りんげつ)に近いお腹をかかえた女の人が行(ゆき)だおれになって死んだ所で、それを埋めてやった土盛りの中から聴こえてくるのでした。

    早速(さっそく)、鍬(くわ)をもってきて堀りかえしてみますと、中で生まれたばかりの赤ん坊が飴玉をくわえて泣いているではありませんか。

    埋められたとき、赤ん坊が生まれたのでしょう。しかし、自分では乳が出ないので、幽霊になって飴玉を買って来て、それを乳のかわりにしゃぶらせていたのでした。

    人々はびっくりしましたが、そのことがわかると、泣いて改めてお母さんの遺体を厚(あつ)く葬(ほうむ)ってやったということです。

     

    それにしても、お母さんってすばらしいですね。皆さんもお母さんを大切にして下さいね。

     

    (話者・八本松町飯田、三宅静真氏)

    飯田米秋・編「賀茂台地の昔話」より

     

     

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