賀茂台地の昔話 ~きつねに化かされたはなし(高屋町)~
2020.09.15
一昔前、よくきつねに化(ば)かされた話を聞かされました。それも昔話だけではなく、化かされたという本人が話してくれたものでした。
「とにかく一晩中、泥まみれになって、同じところをぐるぐる回っていたんじゃが」とか、「よばれにいって、余った膳(ぜん)のものを包んでもろうてもどりょったのを、きつねにせしめられてしもうたんじゃ」などです。
さて、そこで今日はそのきつねに化かされた話をしてみましょう。
造賀村に加藤という庄屋(しょうや)さんがおりました。ときどき用事があって西条四日市(よっかいち)へ行き―その途中に槇原(まきはら)というところがありますが、―そこまで帰るといつもきれいな女の子に出会うのでした。ある日のこと、その日も四日市に出て槇原まで帰りますと、その女の子が石に腰をかけて髪を梳(す)いておりました。
加藤の庄屋さんは、それがきつねの化けた姿であることを知っておりましたので、
「お前は、わしが帰るときはいつもここにおるが、わしをだまくらそうとして、待っとるんじゃろー」
といいますと、娘に化けているきつねは
「いんねのー、庄屋さん、あーたのような偉(えら)い人をだまくらかすことは、できやしませんがのー」
と、すましていいます。庄屋さんは
「そんなら、わしにいっぺん、人をだまくらかすところを見せてくれんかい」
と頼むと、きつねは
「みやすいことでござんす。見とってつかあさい」
といって立ちあがりました。
そのとき、造賀の方から若い元気な男が鼻唄(はなうた)まじりでやってきました。娘に化けているきつねはその若い男に何やら話すと、連れだって付近のこなし屋―こなし屋というのは納屋(なや)のことですが―の中へ入って行きました。
庄屋さんは「さてはー」と、好奇心(こうきしん)にかられてこなし屋へ忍(しの)び寄って中をのぞいて見ようとしました。と、そのとたん「バッタン!」と大きな音がして、何かに蹴(け)られてひっくりかえってしまいました。痛みをこらえてたち上がった庄屋さんがよく見ると、そこはなんとこなし屋ではなく、馬小屋でした。それをのぞきこんでいて馬に蹴られてしまったので、庄屋さんがうまくだまされた、という話です。
ところで、あなたがきつねに化かされそうになったら「きつねうどんにしてやるぞ」とどなってごらんなさい。きつねはきっとあわてて逃げ出すに違いありませんから―。
(話者・八本松町米満、天野守氏)
飯田米秋・編「賀茂台地の昔話」より
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