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  • 賀茂台地の昔話 ~きつねをだました話(河内町)~
  • 賀茂台地の昔話 ~きつねをだました話(河内町)~

    2020.10.01

     昔、河内(こうち)の宇山(うやま)に四反田(したんだ)という家がありました。そこのあととり息子に嫁がくることになり、今晩はその〝しゅうよう〟のある日でした。しゅうようというのは、今でいう「結婚式」のことです。

     そのため、しゅうようの料理を頼まれた魚屋の半助さんは、魚を仕入れるため暗いうちに家を出て町に行きました。そして、鯛(たい)や鰤(ぶり)やいろいろの魚を仕入れました。四反田は大百姓でお客さんも多いので、その仕入れは大変でした。

     

     むかしのことですから、今のように車はありません。半助さんは仕入れた魚をいっぱい入れた篭(かご)を天びん棒でかついで、汗だくになってえんやらさっと上戸野の〝うえがみ〟というところまで帰ってきました。するとどうしたことでしょう。急にねむくてたまらなくなりました。がまんしようと思ってもどうにもなりません。「朝が早かったからかも知れんー」とむにゃむにゃいいながら、仕方なくそこへ篭をおろし一休みすることにしました。

     

     何時間眠ったことでしょうか。はっと眼(め)をさまし、かたわらにおいた篭を見ますと、篭の中には一匹の魚もなく空っぽになっているではありませんか。びっくり仰天(ぎょうて)してとび上がり、あたりを見回しますと、向こうの山をきつねが魚をくわえて逃げていくのが見えました。

     「あんちきしょうの仕業(しわざ)か!」と、後を追いかけて行き、きつねが穴の中へ入ろうとする首根っこをつかまえて「こら! 魚をかえせ!」と、げんこつを一つくらわしました。きつねは

    「痛いッ こらえてつかあさい」といいます。「こらえてくれと。馬鹿(ばか)をこくな。魚がのうては四反田のしゅうようができん。それをどうしてくれるんならー」と、また一つコツンとやりました。

     きつねは「許(ゆる)してくれ、盗んだ魚はみな返すけん」といって、穴の中から魚をぞろぞろ出してきました。半助さんは魚についた泥を落としながら「馬鹿たれが! これじゃしゅうようの〝ごっつおう〟はできゃせんわい」と、ぶつぶついいますと、きつねは「あんたの好きなものと嫌いなものを教えてくれ」といいました。

     変なことを聞くもんじゃと思いましたが、半助さんは「好きなもんちゅうたら別になあが、嫌いなもんならあのきんきらきんと光る小判(こばん)じゃ、あれは大嫌いじゃ、あれを見ると身震(みぶる)いがする」と冗談(じょうだん)とも本気ともつかぬ顔をしていいました。きつねは「そうか、小判が大嫌(だいきら)いか。わかった」と、何やら意味のありそうにうなずきました。

     半助さんは「今度、こがいなことをしやあがってみい、そのときゃこらやあせんから」といいおいて帰りました。

     

     その晩のことです。半助さんの家の戸をたたくものがあります。「誰だろう」と思いながら戸を開けますと、昼間のきつねが「お前の大嫌いな小判じゃ、今日わしをなぐったお礼じゃ、これないとくらえ!」と、バラバラと小判を投げこみました。かたわらに千両箱がおいてあります。半助さんは「わあ、こわい、こわい、小判は大嫌いじゃ、どこから持って来たんなら、こわい、こわい」と、大げさに頭をかかえますと、きつねは「河戸(こうど)の大原屋の蔵から持ってきたんじゃ。さあ、これでもか、これでもか」と、どんどん小判を投げこみます。そのたびに半助さんは「わあ、まばゆい、目が見えん」と悲鳴をあげてみせますと、きつねは図に乗って小判を投げこみ、とうとう千両箱が空になってしまいました。

     これで半助さんは思いもよらぬ大金持(おおがねも)ちになった、というんですがね。どうでしょう。

     

     今でも山へ入ると時折(ときおり)きつねを見かけます。みなさんも一度このようにきつねをだましてみませんか、きっと大金持ちになれますよ。 

     

    (話者・八本松町米満、天野守氏)

    飯田米秋・編「賀茂台地の昔話」より

     

    前回のお話はこちらから

    1.幽霊が飴玉を買いに来た話(八本松町)

     

    2.きつねに化かされたはなし(高屋町)

     

     

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