賀茂台地の昔話 ~身体のけんか(各町)~
2020.11.01
私は夢を見ておりました。疲れていたせいかも知れませんが、身体がばらばらになってしまっているのです。
そしてそのばらばらになった身体のそれぞれが集まって、議論をはじめたのです。
まず目が
「なんといっても、わしが一番大きな仕事をしている。良い所も、悪い所もわしがよくみて案内してやるから、みんなが安心して生活できるんだぞー」
と、いいますと、
鼻が
「何をいうんだ! わしが、たべ物の臭(にお)いをかいで、くさっているか、すえっているかたしかめているから、病気もせずにすんでいるんだぞ!」
こうなると、今度は手がだまっていません。
「いくら、お前が良い悪いといっても、わしがこの手でつかんでこぬことには、どうもなりゃせんじゃないか…」
と、いばりはじめました。
すると、さっきからじだんだふんでいた足が
「よくもまあ、みんな言うねえ。よく考えてみんさいよ、このわしが歩いてみんなの行きたいところへ連れていってやるから、何でもできるんじゃろうがー。ちいたあ、考えてものをいえよー」
それまでだまって聞いていた口がはぶてました。
「ふーん、そうか。そんなら、みんな好きなようにするがええわい、わしゃ何もたべんからのー」
次第に私の身体がだらんとしてきて、起きようとして起きられなくなっているのです。
困った、と思いながら、そのだるくなった身体を、ぜいぜいさせながら、横になったままでおりますと、またもや身体の部分が何かいいはじめました。
一番さきに文句を言いはじめた目が、今度も一番はじめに「わー、何も見えんようになったー、どうしたんかいのー」とわめきますと、鼻が「わしも、何んかしらんむずむずして奥の方が乾いてきてくるしくなった。わー、たまらん!」。
すると、手もまた「だるうなった。わー、しびれてきた。物がにぎれんようになったー、こらえてくれ!」と、どなり出し、足もまたあれだけいばっていたのが、「もうどこへも行きとうない。ひきつけていけんし、にがっていけんわい。おーい、みんな何んとかしてくれんかい!」と、これまた泣き出してしまいました。
そのとき、口が
「みんなよいことは全部自分がするように思っているだろうが、わしが食べて栄養をみんなのとことへ配ってやっとるから、みんなが働けるんだろうが。それに足が食べ物のあるところへ歩いてゆき、目が見て、鼻がおいしいにおいをかぎ、手がそれを取ってわしの口の中へ入れてくれておるから、それができるんじゃろう。これで、みんながもちつもたれつ働いて行かにゃならんちゅうことがよくわかったろうがー」
と、かんでふくめるように話をしますと、みんな
「うん、わかった。わるいことをいった、こらえてくれー」
「よしや、それなら仲なおりして、どこかへうまいもんでも食いに行こう。それにしても親父(おやじ)さん、いつまで寝とるつもりじゃろうか。皆んなで起こしてやれよ、第一、うまいもんを食いに行くいうても、金を払うてくれるのは親父さんじゃけん。親父さんが行ってくれにゃどうにもならん。起こせ、おこせ!」
そのトタン、私は「はくしょん!」と大きなくしゃみをしたかと思うと、パチリと眼(め)がさめました。
庭には椿(つばき)の花が咲いてあたたかい春の日差しが縁(えん)いっぱいにあたっていました。
どうやら私はその縁に寝ころんで眠ってしまっていたようでした。
それでは、どこかへうまいもんを食べに行くことにしましょうか。
飯田米秋・編「賀茂台地の昔話」より
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