賀茂台地の昔話 ~亀と猿とアブの恩返し(福富町)~
2020.12.15
むかし、一人の若者がおりました。
心やさしい男でよく働きましたが、耕(たがや)すにも土地はなく、人に雇(やと)われてその日の生活をするのがやっとという貧乏をしておりました。
そのため皆んなが馬鹿にして一人前に扱(あつか)ってくれず、第一、お嫁(よめ)さんに来てがありませんでした。
若者は、このままではどうにもならん。
よし、よそへ行って自分を受け入れてくれるところをさがそう、と志(こころざし)をたて旅に出ることにしました。
先(ま)ず殿様のいるご城下へ行ってみようと、足をその方へ向けました。
道を歩いていますと数人の子供が亀(かめ)をつかまえていじめております。
若者は「銭をやるけん、放してやってくれ」といい、亀を助けてやりました。
また、旅を続けていますと、今度は猿(さる)がワナにかかっておりました。
「かわいそうに」と、ワナをほどいてやりました。
猿は喜んで「キイ、キイ」と礼をいって山へ入っていきました。
さらに道を急いでおりますと、子供がアブをつかまえ、ワラシビにさして遊んでおりました。
若者はまたも心のやさしさを出して、子供に「むすびをやるけん、そのアブを放してやってくれ」と、たった一つ残っていた焼きむすびをやり、アブを助けてやりました。
このような旅をしながら、若者はやがてご城下に着きました。
町の中へ入って行きますと立札がたち、人々がわいわい言いながらそれを読んでおります。
若者は人々のうしろから背のびをしてその立札をみますと、「城の向こうのけわしい山の頂上に鳥の卵があり、それを取って来た者は姫(ひめ)のムコにする」と書いてあります。
若者は「よし、わしもひとつ応募(おうぼ)してみよう」とお城に行きますと、もう沢山(たくさん)の応募者が集まっておりました。
番号をもらい自分の番になりました。
若者は元気よく出発しましたが、先ず大きな川につき当たりました。
「さて、どうして渡ろうかい」と考えておりますと、前に助けてやった亀が出てきて「私の背中に乗りなさい」といいます。
喜んで亀の背にのり向こう岸に着きますと「帰られるのを待っております」といってくれました。
やがて、道はけわしい山道になり、とても登れそうにもありません。
困っておりますと猿が出てきて、「どうしたのか?」と、ききますので訳を話しますと、猿は「ではここで待っていて下さい。私が取ってきてあげますから」と、身軽(みがる)く岩をよじ登って、鳥の卵を取ってきてくれました。
礼をいい卵を受け取ると、川に出てまた亀の背にのりお城へ帰り、係の人に卵を渡しますと第一次合格の判を押してくれました。
今度は殿様が「もう一つやってもらいたいことがある。それは今から三人の姫が出てくるが、その中に本当の姫がいる。それをあててくれ」というのです。
ふすまをあけて出て来た三人の姫を見ますと、三人とも同じ顔をし、同じような着物を着ており、どれが本物かわかりません。
困り果てておりますと、何か耳のあたりでブンブンするものがあります。
ハテ、何んだろうと横目で見ますとアブが飛んでいるのです。
そして耳元で「中のブンブン、中のブンブン」といってくれているのがわかりました。
「しめたッ!」と思って「真中(まんなか)がお姫様」と、大きな声で答えますと、合格の太鼓(たいこ)がなりひびきました。
やがて若者は姫様のムコになることができ、そのことを知った村の人々はびっくりしたということです。
それというのも、この若者が心がやさしく、助けてやった動物や虫が恩(おん)を返してくれたからできたのです。
(『福富の伝説と民話』より)
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